こんにちは、ウチダです。
今日は、有名な
「バーゼル問題」
という東工大の入試にも出題されたことのある、「ある級数が円周率の 2 乗に収束する」問題の証明を解説していきます!
(なるべく高校数学の知識を用いた解法を心がけます。)
「級数って何?」という方は、まずは以下の記事をご覧になられると良いかと思います。

バーゼル問題とは?
気になっている方も多いと思うので、早速問題を載せたいと思います。
平方数の逆数の和は π26 に収束する。
つまり、∞∑n=11n2=1+122+132+…=π26
この式を見て、皆さん何を感じますか?
なんとなくすごいことは分かっても、どこがすごいのかピンとこない方も多いと思います。
僕が思うに、一番すごいところは
有理数の足し算なのに、一見何の関連性もない円周率 π (無理数)が出てくる
これじゃないかなーと感じております。
いきなりこの問題を証明するのはハードルが高いので、まずは
「果たして左辺の級数は本当に収束するのか?」
ということから見ていきましょう。
級数が収束することの証明【部分分数分解】
収束することの証明は、高校数学の知識がある程度身についていれば証明可能です。
では早速解いていきましょう。
↓↓↓
【証明】
nが正のとき、1n2<1n(n−1)
この式を用いると、
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
したがって、この級数は2以下の値に収束する。
(証明終了)
途中の式で1n(n−1)=1n−1−1nを用いましたが、この技術を「部分分数分解」と言います。
やり方は簡単で、1n(n−1)=an−1−bnのように文字a,bを用いて式を立てて、右辺を左辺の形に戻していきます。
つまり、
ここで、分母がn(n−1)でそろったので、分子を見ていくと、1=(a−b)n+bがすべてのnに対して成り立つ必要があるので、{a−b=0b=1の連立方程式を解いて、a=1,b=1となります。

今行った、差が 1 の部分分数分解の結果は覚えておくと結構便利だったりします。
では、2 より小さいある値に収束することがわかったので、なぜπ26に収束するのか、解説していきます!
バーゼル問題の証明
ここでは、証明手順を 3 つに分けて解説していきます♪
それぞれを端的に一言で表現すると、「マクローリン展開」「因数定理」「係数比較」です。
それでは詳しく見ていきましょう♪
STEP1:sinxを無限級数表示して微分する
まずは、オイラーによって解かれた有名かつシンプルな方法をご紹介します。
ここで、一つだけ認めていただきたい式があるので、それをまずは書きます。
sinx=a0+a1x+a2x2+a3x3+…
以上のように、sinx は「xを用いた無限級数として表せます。( a0 , a1 , … はある定数)



あとで補足するので、次に進みますね。
ここで、
「sinxを4回微分すると元に戻る性質」
これを使います。
(1回目はcosx,2回目は−sinx,3回目は−cosx,4回目はsinxですね。)
まず一回目。cosx=a1+2a2x+3a3x2+…
微分を行ったら、「x=0を代入」してみましょう。
すると、cos0=a1+0+0+0+…=a1となり、cos0=1なので、a1=1であることがわかりました!
このように、
微分する→x=0を代入して定数を求める
を繰り返していくことで、定数anをどんどん求めることができます。
(1番初めの微分する前の式にも、x=0 を代入して a0 の値を求めておきましょう。)
この操作を行うと、sinx=x−x33!+x55!−…
と表せることがわかります。
(補足)
実は今行った操作が、大学の解析学で序盤に習う「マクローリン展開」と呼ばれるものです。
今行ったように、関数を x=0 のときの挙動だけみてあげれば、無限和として表せる、という定理です。
このように、ある一点だけで関数を見ることを「局所的に見る」と言います。
ある一点のまわりだけでの挙動さえわかれば、すべての点においての挙動がわかるのですから、この定理はかなりすごいこと言ってます。
物理学のミクロとマクロの関係に近いですね。
STEP2:因数定理を使う
さて、次のステップは、数学Ⅱで習う「因数定理」を使います。


図をご覧ください。
↓↓↓


虹色で書かれた部分が重要で、
ここで、因数定理とはなんだったかを思い返すと…
因数定理…f(a)=0ならば、x−a、つまり1−xaを因数に持つ。
よって、2つの事実を応用すると、
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
このように因数分解ができますね!!(ここがポイント!)
補足
因数定理を一部改変しているのは、今回の問題のパターンに合わせるためです。
sinxのxの1次の係数は「1」なので、それに合わせて因数分解を行う必要があるということです。
単純に、
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
としてしまっては、xの1次の係数が「−π2−4π2−9π2−…」となってしまい、矛盾してしまいますね。
追記:STEP2は完全に誤りでした。申し訳ございません。
詳細は割愛しますが、sin(x)のような三角関数に因数定理は適用できませんでした。(多項式f(x)に対してのみ因数定理は適用できる)
sin(x)の無限積展開は複素解析の一部であり、その導出は専門的な数学の知識を必要とするので、ここでは割愛させていただきます。(式の結果としては一致します)
間違った情報で混乱させてしまい、大変申し訳ございませんでした。
STEP3:係数比較をする
いよいよ最後のステップに移ります。
今、「マクローリン展開」と「因数定理」という二つの知識を用いて、sinxという関数を二通りの式で表すことができました。
しかし、sinxという関数自体は変わっていないため、その二通りの式が一致していないとおかしな話になります。
よって、
※この数式は横にスクロールできます。
この等式が成り立つことになります。
ここで、この両辺をxで割ってみましょう。
(x≠0とします。)
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
この式のどこに注目するかというと…
実際に見てみると、左辺は−13!=−16です。(おっと、なんかそれっぽくなってきましたね!)
右辺については、まず展開公式を用いて少し変形します。
※この数式は横にスクロールできます。
すると、x2の係数は、ある一つの分数を選んだら他はすべて1を選ばなければならないので、−1π2−1(2π)2−1(3π)2−…となりますね!(組合せ(“C”)の考え方ですね。)
よって、−16=−1π2−1(2π)2−1(3π)2−…が成り立ち、両辺に−π2をかけてあげれば、1+122+132+…=π26したがって、証明することができました。
ポイントを押さえて、認めるところを認めていけば、それほど難解な知識を用いなくても証明できちゃうのが、この問題のすごいところですね!
Coffee Break
さて、少し疲れたので休憩しましょうか。
少し雑学でも挟んでいこうと思います。
この証明を思いついた「レオンハルト・オイラー」は18世紀の数学界の巨匠の1人で、たくさんの業績を残しています。
とくに有名なのが、高校数学でも習う
- オイラーの公式
- オイラーの多面体定理
この2つではないでしょうか。
オイラーさんは、業績を見るに、「整数」の扱い方がとても素晴らしいです。
かと思えば、ネイピア数eの別名が「オイラー数」と呼ばれるなど、活躍は多岐にわたります。
また、今回のバーゼル問題は、「リーマンゼータ関数」なる関数ζ(s)=∞∑n=11nsのs=2の値です。
今回の話を応用すれば、s=4,s=6,…のときも、係数比較をして求めることができて、
ζ(4)=π490,ζ(6)=π6945であることがわかります。
休憩はこのあたりにして、次の章からは、このバーゼル問題を
「高校数学の知識のみ」
を用いて証明していきましょう。
(ただ、丁寧に書くととってもごちゃごちゃしてしまうので、ここでは概略のみの解説とさせていただきます。)
バーゼル問題を「高校数学で」【三角関数で挟み撃ちの原理】
まず、ざっとした方針を説明すると、
- 三角関数を用いて、不等式で級数をはさむ
- はさみうちの原理で極限を求める
これを具体的に行う方法が、「それどうやって思いつくの…?」と疑問に思ってしまうような発想なので、ここでは文献のみ載せることにします。
どちらの証明にも共通して用いている性質が0≦θ≦π2において、sinθ≦θ≦tanθです。
この性質を証明するには、図のような三角形を考えます。
↓↓↓


この図で、それぞれの面積を考えると、△OAB≦扇形OAB≦△OACが成り立っていますね。
あとはそれぞれの面積を θ を用いて表現することで、証明したい性質が得られます。
バーゼル問題に関するまとめ
いかがだったでしょうか。
今日は有理数の足し算でも無理数になってしまう面白い例を紹介しました。
ちなみに、これは「無限回」足し算した結果起こる現象です。有限回の足し算であれば、有理数の足し算は絶対に有理数です。
こういうことを鑑みると、なんか「無限」って面白そうですよね。
数学のいいところは、無限について有限な時間の中で考えることができるところです。
実際大学に行くと、無限についての議論がめちゃくちゃ多いです。
有限なものに関して面白いものはもう発見されつくしているのかもしれませんね。
数学Ⅲで習う「極限」も、高校では直感的に理解しますが、大学では「ε-δ論法(イプシロン-デルタ論法)」と呼ばれる考え方で厳密に定義して、高校の時は考えられなかった極限についても考えていきます。
そういうのに興味がある方は、理学部数学科に進んでみるのもアリかもしれませんね。
以上、ウチダでした。
それでは皆さん、よい数学Lifeを!!
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コメント一覧 (5件)
部分分数分解のところ
収束先は2より小さいじゃなくて 2以下ではないのですか?
右辺を変形していくと=2になりますね。
最初に左辺<右辺という関係が成り立っているので、よって左辺<2が成り立ちます。 なので、2より小さいで正しいです。
第n項までの部分和なら 「<」ですが
極限ですから 「≦」ではないかと思ったんですが
a_n<b_n でも lim a_n =lim b_n の場合や
Σa_n =Σb_n (←ここでのΣは無限和) の場合もあるので
疑問に思いました次第です
ありがとうございました
たしかに、仰る通りですね…
極限であれば、必ずしも「<」とは断言できませんね。 2より小さい、を「2以下」に修正させていただきました! 貴重なご指摘をいただき、ありがとうございました!!
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