こんにちは、ウチダです。
今日は数学B「ベクトル」の発展的内容
「(ベクトルの)外積」
について、まずは定義やその意味から解説し、次に具体的な計算方法、そして外積の応用例やベクトルの割り算について考察していきます。
外積(ベクトルの外積)とは
まず、ベクトルの乗法と言えば「内積」のことを指しました。
⇒参考.「内積とは?ベクトルの内積の意味・公式・求め方などをスッキリ解説!」
上の記事でも少し触れましたが、ふつう演算した結果が他の集合に移ることはあまりありません。
つまり、$$ベクトル・ベクトル=スカラー$$となる内積は、演算としては特殊である、と言わざるを得ません。
そこで、$$ベクトル×ベクトル=ベクトル$$になるような乗法を改めて考えます。
これが「ベクトルの外積」と呼ばれるものです。
※今後この記事では”ベクトルの外積”ではなく、単に”外積”と表記することにします。
それでは、外積をしっかりと定義していきましょう。
外積の定義
まずは図をご覧ください。
↓↓↓
この赤で書かれた $\vec{a}×\vec{b}$ が $\vec{a}$ と $\vec{b}$ の外積になります。
この図には
- $\vec{a}$ と $\vec{b}$ に垂直である。
- 外積の大きさは $\vec{a}$ と $\vec{b}$ からなる平行四辺形の面積と等しい。
- 外積の向きは、$\vec{a}$ から $\vec{b}$ 方向へ右ねじを回したときに進む向き。
以上、大切な情報が $3$ つ含まれています。
逆に、外積で重要な性質が以上の $3$ つに凝縮されていると言ってもいいでしょう。
これらの $3$ つの性質を持ったベクトルを外積と言いますが、これだけではただの暗記になってしまいますので、定義の意味を考えていきましょう。
外積の定義の意味(覚え方)
まず、以上の定義から、外積は $3$ 次元以上のベクトルに対して定義されることは理解できたでしょうか。
$2$ 次元だと、一次独立なベクトル $2$ つに垂直であるようなベクトルは存在しないからです。
さて、外積の定義を覚えるためには、もう一つの乗法である「内積」と関連付けるのが良いでしょう。
①内積
$$\vec{a}・\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos θ$$であり、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ が垂直であるとき、内積は $0$ になる。
②外積
外積の大きさは$$|\vec{a}||\vec{b}|\sin θ$$であり、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ それぞれに垂直である。
内積の大きさ、つまり内積は、それぞれのベクトルの大きさとなす角の余弦をかけた値でした。
それに対して、外積の大きさは、それぞれのベクトルの大きさとなす角の正弦をかけた値です。
先ほど、「外積の大きさ = 平行四辺形の面積」とお伝えしましたが、その平行四辺形の面積は、
と、三角形の面積の $2$ 倍で表すことができました。
次に、垂直の性質については、内積も垂直が重要であることから、外積にも垂直が関係してくるのだと覚えましょう。
さて、ここまで $2$ つの性質を簡単にまとめてきましたが、これだけだと外積は一つに定まりません。
なぜなら、以下のベクトルも外積になってしまうからです。
↓↓↓
単に垂直ってだけだと、反対向きで大きさが同じベクトルも外積になってしまいますからね。
なので、これら $2$ つのベクトルを区別するために、最後の性質である「右ねじを回したときに進む向き」が必要になってきます。
これが外積の定義の概要です。
また、以上のことから$$\vec{a}×\vec{b}=-(\vec{b}×\vec{a})$$
がわかり、つまりベクトルの外積は通常の交換法則が成り立たない、ということになります。
通常の交換法則が成り立たない演算は、数学B履修時点では外積が初めてですね。
また、この式から$$\vec{a}×\vec{a}=\vec{0}$$
がすぐに導けます。
これは、先の式において、$\vec{b}=\vec{a}$ と置き換えれば、$$\vec{a}×\vec{a}=-(\vec{a}×\vec{a})$$
となるので、移項し整理すると、$$2(\vec{a}×\vec{a})=\vec{0}$$
と示せました。
外積の計算方法
さて、外積の幾何的な定義はこれで完璧ですが、ベクトルにはもう一つの表示方法がありました。
そう、成分表示ですね。
この章では、成分表示された外積の公式や、その計算練習などを行っていきましょう。
外積の公式(3次元での成分表示)
いきなりですが、成分表示された外積の公式をまとめます。
$\vec{a}=(a_1,a_2,a_3)$、$\vec{b}=(b_1,b_2,b_3)$ のとき、
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
この外積の公式は絶対に覚えなければなりません。
導出は少しややこしいですが、基本ベクトルの外積や外積に成り立つ性質を駆使すればできます。
※外積に成り立つ交換法則・分配法則・結合法則を用いて、基本ベクトル表示した式を変形していけば導くことができます。⇒参考.FNの高校物理さん
ここでは、逆を確認しましょう。
つまり、このように表されたベクトルが本当に外積になっているか、確認します。
【外積であるか簡単に確認】
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
(補足.)途中の式計算において、
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
を加えることで上手く式変形ができる。
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
同様に
$$\vec{b}・(\vec{a}×\vec{b})=0$$
(簡単な確認終了)
垂直である性質も大きさもちゃんと成り立っています。
では次に、この外積の公式の覚え方について考察していきます。
外積の公式の覚え方(3次元)
もう一度書くと、外積の公式は
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
でした。
ここで、それぞれの成分に元の成分が存在しないことにお気づきでしょうか。
つまり、$x$ 成分(第一成分)には $y,z$ 成分の値があり、$y$ 成分(第二成分)には、$z,x$ 成分の値があり、…というふうにです。
これを利用した良い覚え方があります。
↓↓↓
①、②、③というのは、それぞれ第一成分、第二成分、第三成分を表しています。
③の右に、もう一つ①を書きます。
その上で、クロスするように掛け算をし、その積の差が外積の各成分の値になります。
外積は別名“クロス積”とも呼びまして、これは演算記号が「×」であるためだと言われています。
しかし、$3$ 次元での外積の計算が正しく“クロスの積の差”であることを考えると、もしかしたら別の理由もあるのでは…?と深く考えてしまいますね。
外積計算の練習問題
$4$ 次元以上の外積は難しいので省略します。
そもそも $4$ 次元自体を高校数学では扱いませんね。
ここでは、$3$ 次元の外積計算をいくつか練習してみましょう。
(1) $\vec{a}=(1,2,3)$、$\vec{b}=(2,3,4)$
(2) $\vec{a}=(1,-2,-3)$、$\vec{b}=(-1,2,-3)$
(3) $\vec{a}=(2,3,4)$、$\vec{b}=(1,2,3)$
(4) $\vec{a}=(100,295,374)$、$\vec{b}=(100,295,374)$
(3)以降は、ぜひ外積の性質を上手く使って解いてみて下さい♪
【解答】
(1)
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
(2)
※この数式は横にスクロールできます。
(3) $$\vec{a}×\vec{b}=-(\vec{b}×\vec{a})$$であるから、(1)より、$$\vec{a}×\vec{b}=-(-1,2,-1)=(1,-2,1)$$
(4) $\vec{a}=\vec{b}$ より、$$\vec{a}×\vec{b}=\vec{0}$$
(解答終了)
地味に注意点ですが、ベクトルの外積はベクトルなので、(4)みたいな場合$$\vec{a}×\vec{b}=0$$と書くとアウトです。
必ず$$\vec{a}×\vec{b}=\vec{0}$$として下さいね。
外積の応用例2つ
次に外積の応用例を $2$ つピックアップして見ていきます。
一つは外積の定義そのもの、もう一つは大学で必修の線形代数にも役立つ内容です。
2つのベクトルに垂直なベクトル
例えばこんな問題があります。
$$\vec{a}=(3,-2,5)$$$$\vec{b}=(1,7,-3)$$
この問題に外積の知識なくして挑もうとするとすっごく大変です。
求める単位ベクトルを $\vec{e}=(x,y,z)$ と置いて$$\left\{\begin{array}{ll}\vec{e}・\vec{a}=0\\\vec{e}・\vec{b}=0\\|\vec{e}|=1\end{array}\right.$$
この連立方程式を解かなければならないからです。
しかも、外積を知っている我々ならわかりますが、答えのベクトルは $2$ つあります。
ではこの問題を、外積の知識を用いてスッキリと解いてみましょう。
【解答】
※この数式は横にスクロールできます。
これが $\vec{a}$、$\vec{b}$ に垂直な一つのベクトルである。
ここで、
(解答終了)
外積を使わない場合の計算量を想像するだけでも恐ろしいですね…。
平行6面体の体積【スカラー3重積】
もう一つは、外積を使うと平行6面体の体積が簡単に求まる、というものです。
図のような平行6面体の体積は、底面積×高さですから、$$|\vec{b}||\vec{c}|\sin θ×|\vec{a}|\cosΦ$$
と表すことができます。
ここで、$|\vec{b}||\vec{c}|\sin θ=|\vec{b}×\vec{c}|$より、$$|\vec{b}×\vec{c}||\vec{a}|\cos Φ$$となり、よってこれは $\vec{a}$ と $\vec{b}×\vec{c}$ の内積の定義式より、$$\vec{a}・(\vec{b}×\vec{c})$$これが平行6面体の体積になります。
試しに一問だけ問題を解いてみましょう。
【解答】
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
より、この体積 $V$ は
(解答終了)
図形を考えなくても機械的に解けるのは楽でいいですね。
また、今行った、外積との内積の計算$$\vec{a}・(\vec{b}×\vec{c})$$を「スカラー3重積」と呼び、行列、特に行列式の単元を習うと、$$\vec{a}・(\vec{b}×\vec{c})=\begin{vmatrix}a_1 & a_2 & a_3\\b_1 & b_2 & b_3 \\c_1 & c_2 & c_3\end{vmatrix}$$
と計算できることを証明できます。
行列式をご存じの方向けに一応計算しておくと、
と計算できて、確かに答えが一致しました。
※ちなみに今回「サラスの公式」を用いて計算しました。
【研究】ベクトルの割り算が定義できないことの証明
最後に、研究的な内容ではありますが、ベクトルの割り算が定義できないことについて考察していきたいと思います。
皆さんご存じの通り、ベクトルには加法と減法、それから乗法については内積とこの記事で扱ってきた外積の $2$ 種類が定義されています。
では、ベクトルの除法は定義できないのでしょうか?
まず、「減法は加法の逆演算である」ということに着目しましょう。
これはつまり、減法というのは加法に依存している、とも言い換えられるでしょう。
加法が定義できないと減法は定義できないわけです。
では、除法も同じであると考えれば、「除法は乗法の逆演算である」と言えますね。
ここで、逆演算とは何か考えていきます。
例えば、$$□+(5,3)=(6,4)$$という式が成り立つとします。
この時、$$□=(6,4)-(5,3)=(1,1)$$というふうに求めることができます。
また、□の解は $(1,1)$ しかありません。
このように、ある数や式 A に対して B が得られるとき、とある演算によって B のみが A に戻ることができるとき、その演算を逆演算と呼びます。
これをより数学的に表現すると「逆元の一意性」と言います。
ではここで、「内積と外積」にたいして逆演算を考えてみましょうか。
例えば、$$□・(2,1)=4$$これを満たす□は本当に一意に定まるでしょうか…。
考えてみると、$$□=(1,2)$$でもOKですし$$□=(2,0)$$でもOKですね。
また、$$□×(1,2,3)=\vec{0}$$を満たす□は$$□=(1,2,3)$$でもOKですし$$□=(2,4,6)$$でもOKです。つまり$$□=k(1,2,3) (kは任意の実数)$$でこの式は成り立ってしまいます。
こうして見ると、除法って定義していいでしょうか…。
全然一意に定まってないですよね。
よって、ベクトルの加法においては逆元が一意に定まるので減法を定義できますが、ベクトルの乗法(内積と外積)においては逆元が一意に定まらないので除法を定義できません。
この話は、数学専攻の大学2~4年次で習う「群・環・体」につながってきます。
※物理学専攻でも一部「群」を習うこともあります。
ただの四則演算でも、こうして考えてみると話が深くて面白いですね。
外積に関するまとめ
外積にはもっともっといろんな使い方があります。
今日は高校数学の範囲で話を進めてきました。
外積は、見た目が難しい形をしているので数学離れが起きやすい分野であると思いますが、内積と関連付けて理解したり、面白い応用例を数個知っておくだけで、かなりとっつきやすくなるかと思います。
$4$ 次元とか $5$ 次元とか、難しい話は大学に入ってからいくらでも勉強できますからね。
この記事で、外積の魅力に少しでも触れていただけたのなら幸いです^^
次に読んでほしい「点と直線の距離」に関する記事はこちら!!
↓↓↓
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以上、ウチダでした。
それでは皆さん、よい数学Lifeを!!
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