こんにちは、ウチダです。
今日は
「ベクトルの内積」
について、まずは定義の意味から入り、次に公式・求め方・計算方法を分かりやすく解説し、最後に内積を用いた応用問題を解いていきます。
内積(ベクトルの内積)とは?
前回の記事で、ベクトルの加法と減法と実数倍についての定義を解説しました。
⇒⇒⇒「ベクトルとは?足し算引き算(合成)や成分表示について分かりやすく簡単に解説!」
今日はその続きである「ベクトル同士の乗法」についての定義を見ていきましょう。
そしていきなりですが、実はその「ベクトルとベクトルの掛け算」として定義されたのが“(ベクトルの)内積”と呼ばれるものなんですね!
では早速、内積の定義をまとめます。
(今後、”ベクトルの内積”ではなく単に”内積”と記すことにします。)
↓↓↓
言葉で言い表すならば、$$\vec{a}・\vec{b}=( \vec{a} の大きさ)×( \vec{b} の大きさ)×\cos θ$$
となります。
まずポイントなのが、ベクトルは大きさと向きを持つ量なので、「ベクトルのなす角 $θ$ が定義に含まれる必要がある」ということです。
また、”内積”と表現していることから分かる通り、ベクトルには”外積”も存在しています。それと区別するために、内積には「×」ではなく「・」の記号を用います。
…はい、ふに落ちませんよね。
ここら辺がベクトル嫌いを生む理由だと私は思います。
実際、数学の定義なんてのは、「こう定義するんじゃ~」と誰かが言って、それに従って議論していったら何か色々生まれた、と我々は思いがちです。
しかし!それは私たちの思い込みに過ぎないかもしれません。
定義が生まれるからには、定義する必要性がそこにはあるのです。
なので、まずは内積の定義の意味から詳しく考えていき、「なんでこんな定義をするのか」少しでも紐解いた上で次に進んでいく必要があります。
内積の定義の意味
内積の定義式を見たときに、一番に思いつく疑問は何でしょうか。
それはきっと「何故 $\cos θ$ なのか」でしょう。
これについて解説していきます。
結論を一言で言ってしまうと「上から光を当てたときに映る影の掛け算になっているから」です。
図をご覧ください。
↓↓↓
確かに上から光を垂直に当てられた場合、映る影(正射影)の大きさは $|\vec{b}|\cos θ$ ですね。
同じ向きのベクトルであれば、角度を気にしなくていいから、普通の掛け算のようにただ大きさをかければよいということになります。
これで内積の定義の意味は理解できたでしょうか?
あともう一つ、定義の意味として「 $\vec{b}$ が $\vec{a}$ の方向にする仕事量を表している」とも考えられます。
簡単に説明します。
↓↓↓
今、$\vec{a}$ として「進む向き」と「その物体の持つエネルギー」を表しているベクトルがありますね。
それに対して、棒人間が力を加えていますが、その時に物体にしている仕事量というのが青の部分と $\vec{a}$ の内積ということになります。
これだけだと不十分だと思いますので、他サイトではありますが、内積の意味を理解するうえで役に立つ記事のリンクを貼っておきます。
是非ご参考ください^^
成分表示されたベクトルの内積【余弦定理】
さて、今は図形的に矢印で表現されたベクトルに対して内積を定義しました。
ベクトルの表現方法と言えば、もう一つ「成分表示」がありましたので、成分表示されたベクトルの内積についても考えていきましょう。
まず、$\vec{BA}=\vec{a}-\vec{b}$ になることは前回の記事でやりましたね。
ここで、内積に $\cos θ$ が登場していることから、数学Ⅰを振り返ると…「余弦定理」が使えそうではないですか!
ここでやっと三角比の知識の使いどころが出てきました。色んな知識が結びついてきましたね^^
⇒⇒⇒「余弦定理の証明とは?角度・面積を求める計算問題や公式の覚え方をわかりやすく解説!」
なので、とりあえず余弦定理を用いてみましょう。
それから、今回あらかじめ$$\vec{a}=(a_1,a_2),\vec{b}=(b_1,b_2)$$とベクトルを成分表示しておきます。
【導出】
△OAB に余弦定理を用いると、$$|\vec{a}-\vec{b}|^2=|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2-2×|\vec{a}|×|\vec{b}|×\cos θ$$
内積の定義式を代入すると、$$|\vec{a}-\vec{b}|^2=|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2-2×(\vec{a}・\vec{b})$$
となる。
ここで、ベクトルの成分表示より
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
この式を展開すると、
※この数式は横にスクロールできます。(スマホでご覧の方対象。)
この式を整理すると、$$2(\vec{a}・\vec{b})=2(a_1b_1+a_2b_2)$$
よって、$$\vec{a}・\vec{b}=a_1b_1+a_2b_2$$
(導出終了)
使っている知識は余弦定理と三平方の定理(ピタゴラスの定理)のみです!
すごいスッキリした形になりましたね!
また、今 $2$ 次元(平面)で考えましたが、これが空間になろうが余弦定理はいつでも成り立つため、$3$ 次元(空間)でも同様に導くことができます。
以上の話をまとめます。
$\vec{a}=(a_1,a_2),\vec{b}=(b_1,b_2)$ のとき、$$\vec{a}・\vec{b}=a_1b_1+a_2b_2$$
また、$\vec{a}=(a_1,a_2,a_3),\vec{b}=(b_1,b_2,b_3)$ のとき、$$\vec{a}・\vec{b}=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$$
$n$ 次元に一般化できますが、それは大学に入ってからでも遅くないでしょう。
内積の性質5つ
ここまでで内積の定義やその意味について、理解が深まったかと思います。
ではここで、内積について成り立つ性質を見ていきましょう。
1.$\vec{a}・\vec{a}=|\vec{a}|^2$
2.$\vec{a}・\vec{b}=\vec{b}・\vec{a}$ (交換法則)
3.$(\vec{a}+\vec{b})・\vec{c}=\vec{a}・\vec{c}+\vec{b}・\vec{c}$ (分配法則1)
4.$\vec{a}・(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}・\vec{b}+\vec{a}・\vec{c}$ (分配法則2)
5.$(k\vec{a})・\vec{b}=\vec{a}・(k\vec{b})=k(\vec{a}・\vec{b})$
「$5$ つもあって覚えるのが大変!」とは思わないでください。
よ~く見てみると、なんか今までの実数のルールと同じものが多くないですか…?
これが内積の良いところの中の一つでもあるのですが、例えば交換法則や分配法則など、今まで通りの法則に従って計算ができるのです!
なので、2.3.4についての証明は省略しますし、5.についても証明は省きます。
だって、どこで実数倍してもいい、というだけですからね。
1.も証明自体は簡単です。
というのも、これらすべて成分表示した内積を使えば簡単に示せます。
しかし、1.の性質は意外と重要で、内積の応用問題を解く際にかなり使います。
これは後述するので今は省略しますが、とりあえずこの性質は特に押さえておきましょう。
(といっても、同じベクトルの内積は当然大きさだけ掛ければいいわけですから、意味はとっても分かりやすいですが。)
内積の応用問題
この章では、内積を使った問題としてよく出るものをピックアップして解説していきます。
今までの性質を使ったものから、少し発展させたものまで色々ありますので、この機会にマスターしておきましょう!
ベクトルのなす角の公式
まずは「ベクトルのなす角を求める問題」です。
これについては公式がありますので、さっそくご紹介します。
$\vec{a}=(a_1,a_2),\vec{b}=(b_1,b_2)$とし、そのなす角を $θ$ とする。このとき、
勘の鋭い方はお気づきでしょうか。
そう、この式、実は内積の定義式をちょっと変形しただけなんですね!
だって、内積の定義式って$$\vec{a}・\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos θ$$でしたもんね!
この式の両辺を $|\vec{a}||\vec{b}|$ で割っているだけです。
なので覚える必要はないんですけど、ベクトルのなす角を $\cos θ$ を調べることによって求められるという事実だけは押さえておく必要があります。
では練習問題をいくつか解いてみましょうか。
(1) $\vec{a}=(1,2),\vec{b}=(-2,6)$
(2) $\vec{a}=(1,1,2),\vec{b}=(0,-1,-1)$
(3) $\vec{a}=(5,3),\vec{b}=(-3,5)$
ヒントなしで解答に移ります。
↓↓↓(答えあり)
【解答】
(1) $$\vec{a}・\vec{b}=1×(-2)+2×6=10$$
$$|\vec{a}|=\sqrt{1^2+2^2}=\sqrt{5}$$$$|\vec{b}|=\sqrt{(-2)^2+6^2}=\sqrt{40}=2\sqrt{10}$$
より、
したがって、$0°≦θ≦180°$ より、$$答. θ=45°$$
(2) $$\vec{a}・\vec{b}=1×0+1×(-1)×2×(-1)=-3$$
$$|\vec{a}|=\sqrt{1^2+1^2+2^2}=\sqrt{6}$$$$|\vec{b}|=\sqrt{0^2+(-1)^2+(-1)^2}=\sqrt{2}$$
より、
したがって、$0°≦θ≦180°$ より、$$答. θ=150°$$
(3) $$\vec{a}・\vec{b}=5×(-3)+3×5=0$$
したがって、大きさがいくらであっても$$\cos θ=0$$となるため、$$答. θ=90°$$
(解答終了)
まず(1)は今までの復習的な問題です。
続いて(2)ですが、これは「 $3$ 次元になってもやることは同じである」ということを伝えたい、ただそれだけの問題です。
最後、(3)ですが、内積が $0$ になった時点で $\cos θ=0$ となるしかありませんから、よって、$$θ=90°$$であることがすぐに分かります。
そして、この事実がとても重要で、次の応用問題につながってきます。
【超重要】ベクトルの垂直条件
$\vec{a},\vec{b}≠\vec{0}$ であるとき、
$$\vec{a}⊥\vec{b} ⇔ \vec{a}・\vec{b}=0$$
つまり、二つのベクトルが垂直であることと、ベクトルの内積が $0$ であることは同値(必要十分条件)であるということです!
この事実はものすごく重要ですし、このために内積があると言っても過言ではありません。
実際、成分表示された内積の計算はとても簡単で、その計算だけで垂直であるかどうか示せます。
「平行を示す」条件はたくさんあっても、「垂直を示す」条件は中々ないので、この定理はこれからも結構使いますよ~。
ということで、早速練習問題です!
(1) $\vec{a}=(3,4)$ と垂直な単位ベクトル $\vec{e}$ を求めよ。
(2) $|\vec{a}|=1,|\vec{b}|=1$ で、$\vec{a}-\vec{b}$ と $2\vec{a}+3\vec{b}$ が垂直である。このとき、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ のなす角 $θ$ を求めよ。
ちょっと応用が利いてますが、頑張って解いてみて下さい!♪
【解答】
(1) $\vec{a}$ と垂直なベクトルの一つとして、$$\vec{b}=(-4,3)$$が存在する。(ここがポイント!)
ここで、$$|\vec{b}|=\sqrt{(-4)^2+3^2}=\sqrt{25}=5$$より、単位ベクトルは大きさが $1$ なので、
※複合同順である。
(2) $(\vec{a}-\vec{b})⊥(2\vec{a}+3\vec{b})$ より、$$(\vec{a}-\vec{b})・(2\vec{a}+3\vec{b})=0$$
よって、$$2|\vec{a}|^2+\vec{a}・\vec{b}-3|\vec{b}|^2=0$$
この式に $|\vec{a}|=1,|\vec{b}|=1$ を代入すると、$$\vec{a}・\vec{b}=1$$
よって、$$\cos θ=\frac{1}{1×1}=1$$
したがって、答えは$$θ=0°$$
(解答終了)
いくつかポイントがあります。
まず(1)では、求める単位ベクトルを $\vec{e}=(x,y)$ とおいても解けますが、せっかく内積 $0$ で垂直なベクトルが作れることを知っているのだから、もう少し楽をしましょう。
さっきの章の練習問題(3)に見たように、$\vec{a}=(a_1,a_2)$ のとき、$$\vec{b}=(-a_2,a_1)$$とおけば $\vec{a}$ と $\vec{b}$ は垂直になりますね。
次に(2)では、内積の性質1,3,4,5を使いました。
通常の実数と同じように展開公式が使えるということです。
また、$\cos θ=1$ になったので、なす角は $0°$ となり、これらのベクトルは平行であると言えます。
もう一つ、なす角が $180°$、つまり $\cos θ=-1$ のときも平行であると言えるので、ベクトルの平行条件は$$\vec{a}//\vec{b} ⇔ \vec{a}・\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}| または \vec{a}・\vec{b}=-|\vec{a}||\vec{b}|$$
となりますが、これについては特に覚えておく必要もないでしょう。
ベクトルの大きさを求める計算
さて、先ほどもちらっと触れてしまいましたが、内積の性質1を使う問題としてよく出てくるのがこんな問題です。
↓↓↓
$$|\vec{a}|=1,|\vec{b}|=3,\vec{a}・\vec{b}=-1$$
ただ単にベクトルの大きさを求めようとすると、この問題は解けません。
しかし、内積の性質1をよく見てみると…$$|\vec{a}|^2=\vec{a}・\vec{a}$$
つまり、大きさの $2$ 乗を考えることで内積計算に落とし込める、ということになります!
ここがものすごく重要です!
ポイントはそこだけなので、あとはこの問題をササっと調理しちゃいましょう。
【解答】
また、$|3\vec{a}+\vec{b}|>0$ であるから、$$|3\vec{a}+\vec{b}|=\sqrt{12}=2\sqrt{3}$$
(解答終了)
三角形の面積をベクトルで求める【発展】
ここまでで、内積の扱いについては大分慣れてきたでしょうか。
発展として、一つご紹介しておきます。
まず、三角形の面積の最も重要な公式として、$$S=\frac{1}{2}bc\sin A$$というものがありました。
これは数学Ⅰで習ったので、ここでは省略します。
さて、この公式をよく見てみると、$\sin θ$ が存在します。
また、$\sin θ$ と $\cos θ$ については、$$\sin^2 θ+\cos^2 θ=1$$という便利な相互関係の式がありますので、一方をもう一方に簡単に変換することができます。
≫参考記事:三角比の相互関係の公式4つって?【証明・覚え方・応用問題6選を解説】
…おっ?
ということは、$\cos θ$ が作れるので、三角形の面積を内積で表すことができるのでは…!?
そういう発想になりますし、式変形が多少めんどくさいですができます。
この記事では解説を省略しますが、ぜひ気になる方は自分で公式を導き出してみるのも面白いかもしれません。
三角形の面積についての記事はこちら!!(内積を用いた公式ももちろん載ってあります。)
⇒⇒⇒三角形の面積の求め方とは?sinやベクトルを用いる公式も解説!【小学生から高校生まで】
内積と外積の違い【研究】
ここまで内積について見てきましたが、理解は深まったでしょうか。
ですが内積を語るうえでもう一つ押さえておきたいことがあります。
それは「ベクトルとベクトルの内積はスカラーになってしまう」ということです。
確かに、そのおかげで実数とほぼ同じ演算規則で計算できますし、垂直である条件なども簡単に出すことができました。
しかし、数学的な構造の面において、たとえば「実数×実数=実数」という風に、同じ枠に収まっていた方が議論はしやすいです。
ですので、ベクトルとベクトルの掛け算の結果が、本当はベクトルであった方が嬉しいのです。
そこで登場するのが、もう一つの掛け算「外積」です。
「なぜ内外で区別をつけたのか」という疑問に対する答えは僕にもわかりません。勝手に「ベクトル同士の”内側の角度”を使っている方が内積」と理解しています。
外積に関する詳しい解説は別個記事に致しますが、簡単に説明してしまうと、「 $2$ つのベクトルに垂直で、大きさがそれらのベクトルからなる平行四辺形の面積であるようなベクトル」です。
言葉だけだとちょっと難しいですね(^_^;)
また、今までで加法・減法・乗法と見てきましたが、なんとベクトルには除法は存在しません!
これについての解説も外積の記事にて行いたいと思います。
外積に関する記事はこちらから!!
↓↓↓
関連記事
外積(クロス積)とは?ベクトルの外積の意味や計算方法などをわかりやすく解説!
内積(ベクトルの内積)に関するまとめ
内積の定義の意味や使い方は、もうバッチリですかね!^^
内積を定義して嬉しいこととして、
- 成分表示の内積の計算がとってもラク!
- ベクトルの垂直を簡単に示せる!
この $2$ つは押さえておくといいかと思います。
また、「位置ベクトル」という考え方を導入することで、普通の平面図形においてベクトルを考えることができるようになります。
すると、ベクトルの垂直条件もより意味を持つ命題になりますね。
次に読んでほしい「位置ベクトル」に関する記事はこちらから!!
↓↓↓
関連記事
位置ベクトルとは?内分点・外分点・三角形の重心の求め方を解説!【応用問題の解き方】
以上、ウチダでした。
それでは皆さん、よい数学Lifeを!!
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